データ不足資源の評価会議

水産資源研究所長崎支所で開催された水産資源評価の会合『西海ブロック資源評価会議』と『マダイ日本海西部・東シナ海系群資源評価会議』に外部有識者として参加させていただきました。

 

西海ブロック会議の方は,ケンサキイカ,アカアマダイ,キダイ,タチウオなど,漁獲や生物特性に関する情報が不十分な種に対して次年度の漁獲枠(TAC)を設定するために,限られた情報に基づいて資源評価を行う内容です。漁獲量や資源の相対的な増減傾向を表すCPUEなどの指標から,資源が多いか少ないか(資源水準),増加しているか減少しているか(資源動向)を判断し,その結果を一定の経験則に当てはめて生物学的な許容漁獲量(ABC)を算定します。この会議で議論の対象となる東シナ海〜日本海西部の水産資源は,中国・韓国・台湾などの外国漁業の拡大,地球温暖化などの海洋環境変化,日本国内での漁業の縮小と資源管理強化など様々な要因の影響を受けていますが,利用できる情報の多くは断片的です。一番使えそうな断片データを定められた経験則に当てはめてABCを算出するだけの機械的な作業に終わることなく,断片情報を繋ぎ合わせることで海と資源と国内外の漁業がどのような状態になっていると資源評価担当者は捉えているのか,全体のイメージを作業仮説として提示した上で必要と思われる管理措置や埋めるべきデータギャップを指摘して議論することが合意形成のために有用であると感じました。断片的なデータを解釈する上では,漁業と独立した形で20年以上継続されている東シナ海の底曳網調査などの科学調査が極めて重要であり,対象となる資源の生産力などの生物特性や漁業による影響の受けやすさから想定されるリスクの大小を予め予測しておくことも重要と思いました。

 

一方マダイの会議では,成長成熟などの生物情報や年齢別漁獲尾数,CPUE時系列データが出揃い,コホート解析(チューニングVPA)が行われています。得られた結果は,水産白書に明記されているように,他の資源と比べて神戸プロット左上のレッドゾーン(乱獲かつ過剰漁獲)の極端な位置に来るもので,小型のマダイを獲りすぎて資源がMSY水準を大きく下回っていることを表しています。科学者側が年齢別漁獲尾数の算出方法や,成長・成熟パラメータなどのデータ改善に務める一方,管理者側・利用者側は単に小型魚漁獲を規制して終わりではなく,小型魚を獲らなくても必要な収入を得られるよう売り方を含めた漁業のモデルを作って資源と漁業者さんの両方が共存できる仕組みを構築することが大切であると痛感しました。20センチに満たない小さいマダイが,どこに何円で売られて一体何に利用されているのか(需要がどこにあるのか?),まずはそこから調べてみたいと思っています。