五島の漁業と洋上風力

若松から福江に回って,下五島の水産物流通や洋上風力について五島福江漁協でお話を伺いました。最近では首都圏でも五島の魚を見かける機会が多く,福江では「五島〆の匠」として漁業者さんをブランド登録して,収穫される高品質の魚を直販するシステムも作られていることから,現代的なIT化された流通販売が力を発揮しているものと期待していたのですが,意外なことに,漁協を通じて長崎魚市や福江魚市に持って行ったり,漁連を通じて関東関西で販売する「系統出荷」がもっぱら利用されていました。「五島〆の匠」は漁師さんが値段をつけるのが特徴ですが,それを買う消費者は色々な魚種の詰め合わせ(いわゆる色物)を希望するのに対し,個々の漁業者さんは多魚種を取り混ぜて発送できない(ある時期ある魚がまとまって獲れる)ことも多く,なかなか販売を拡大できないでいるそうです。

 

一方,五島といえば日本の洋上風力の先駆けであり,工事が着々と進んでいて浮体式発電機の支柱が港の脇に並んでいました。前の組合長さんは風力発電施設の魚礁効果により海洋牧場ができて漁業も栄えると信じてwin-winの将来像を描かれていましたが,定置網漁業を営んでおられる現在の組合長さんは魚礁効果に懐疑的で,これから漁業協調策と基金の使い方を慎重に検討するというお話でした。環境省の実証機のころから10年以上の年月をかけて地元の合意形成を行ってきた五島の洋上風力開発ですら,漁業協調が白紙に近い状態であることに改めて驚きました。洋上風力を受け入れる方向に舵を切ったら(=有望区域に立候補したら),漁業サイドが先手を打って漁業の将来像を描き協調策を打ち出していくことが大切です。