島の養殖の光と影

上五島の若松神部地区の漁協と養殖漁業者さんを訪問してお話を伺ってきました。若松は昔からブリ養殖が盛んな地域で,逆に漁船漁業者は現在非常に少なく,養殖主体の漁業が行われています。かつては漁協から漁連を通して魚を発送する系統出荷が主体でしたが,阪神淡路大震災の時に道路交通網が分断され漁連が輸送販売を請け負わなくなったことから,養殖業者さんが独自出荷するようになり,現在では漁協の収入や求心力が極端に低下しているようです。

 

養殖事業者さんたちは,ブリだけでなくヒラマサやマグロを取り混ぜ,上五島の地の利を生かした特色ある事業を展開されていました。地の利として,嵐の影響を受けにくく海水の交換が良いリアス式海岸の優れた海洋環境や,近くの海でブリ稚魚(モジャコ)を直接採取できる利便性が挙げられます。大変興味深いことに,モジャコが全国的に不漁の年でも,上五島周辺では比較的豊富にモジャコが採れるため,ブリ養殖の収益がそういう年ほど大きくなるそうです。その背景には,日本全国で現在何尾ブリが養殖されているかという情報を買い手側が把握しているため,価格を生産者側が決められない事情があるそうです。どんなに高品質の魚を作っても「所詮ブリはブリ,そんなに高い値段では売れない」という徳丸の大坪社長のお言葉が印象的でした。

 

一方,離島の不利な条件は,やはり物流だそうです。作った魚を輸送販売するコストだけでなく,エサや資材を調達するコスト,さらには海がシケると物資が届かなくなるので備蓄も必要になります。かつてはそのような共益的事業を漁協が担っていた訳ですが,現在はそうしたリスクを背負いながらビジネスを展開できる事業者さんが生き残っているのが,離島の養殖業であると認識しました。