6次産業化とは?

農家や漁師さんの経営状況や産品流通販売の評価・改善方法について学び,食の6次産業化プロデューサーの資格を得るために,社会人向け育成プログラムの講習を受けてみました。私が受講したのは岡山にある(一社)日本地域イノベーション研究機構の藤澤さんが主催されているオンライン講習です。講義は8月末から3週連続で土曜・日曜に開催され,さすがに週末返上で受講するとクタクタに疲れましたが,非常に興味深い内容で刺激を受けました。

 

藤澤さんが講義の中で繰り返し強調されていたのは『6次産業化は,農林水産物から加工品を作って販売する「6次商品化」とは異なる』,『地域を活性化し持続可能性を高めるために今までのやり方や仕組みを改善していく取り組みが6次産業化であり,「農山漁村発イノベーション」と呼ぶ方が適切である』ということです。それを実現するために,生産者が良いものを作って売るプロダクトアウトから,消費者側のニーズに沿った製品を作るマーケットインへ,そして消費者の理解を得ながら地域を創造するソーシャルへとマーケティングの理念も変わってきていると言えます。

 

そう考えると6次産業化は,生産効率や販売価格,数量などを高める局所最適解を探るのではなく,地域全体の効率を高め持続可能にする「システム思考」を農山漁村を舞台として実践していく活動であると捉えることができそうです。講習を聞きながら,我々研究者の仕事も,研究者が最新最善と考える技術を開発するプロダクトアウト型や,現場課題を解決するマーケットイン型から,システム思考型のソーシャルな成果創出が求められているように感じました。

 

ただ,具体的な成果を産品として捉えやすい「6次商品化」と異なり,「やり方や仕組みの改革」は進展状況や成果を形として捉えることが困難です。そこで役立つツールとして,マーケット分析,経営戦略分析,財務分析などについても数多く学ぶことができました。『いくつかのディメンジョンを区分して特徴や問題点を類型化していく比較分析手法は,コミュニケーション・ツールとして非常に有用である』というのも藤澤さんの力説されたところ,確かにその通りで使えるテクニックであると直感しました。

 

最も印象的だったのは熊本大学徳野先生の研究成果です。消費者を「農産物の価値が分かる・分からない」「支払い意欲がある・ない」の2軸で分類して4分割すると,「価値がわかり相応の金額を支払える消費者」の割合はたった5.5%に過ぎないそうです。今まで私は「薄利多売をやめて良い魚を相応の高い価格で売ることで漁業も水産資源も健全化できるはずだ」と考えていたのですが,この論理が通用するのは市場の5.5%に過ぎない...そこだけを相手にしていると,魚は趣味の嗜好品になってしまう恐れがある,という危機感を感じました。右上のディメンジョン以外を対象とした事業も展開しながら,5.5%を縮小させず拡大する方法を考えていくことが水産業6次産業化への道のような気がしています。

 

水産学部の学生たちや先生方もこういった話に接する機会があれば良いと思います。実際に農業系の高校や大学では授業の中に取り入れている例もあるようです。各地でいろいろな講座が開設されていますので,皆さんも興味をもったらレベル1あたりからチャレンジしてみてはいかがでしょうか。