日本の政府・企業が世界のグリーンビジネスに乗り遅れた理由:連休の推薦図書

連休始めに写真の新書「グリーン・ジャイアント」を読みました。

https://books.bunshun.jp/ud/book/num/9784166613274

脱炭素ビジネスにおいて日本の政府と企業が「2周回遅れ」になっている状況とその背景について,初めて聞く話が克明に記述されていてとても勉強になりました。近未来の世界と日本の基幹産業のパワーバランスとSDGs時代の生活のあり方について真剣に考えるための基礎知識としてお薦めします。以下に私が驚いた話題の概略を示しますが,詳しくは本をお読みください。

1997年の京都議定書採択もあり2000年まで日本は太陽光発電の技術と導入率で世界のトップを走っていましたが,2005年には国の助成金も終了し一段落した形になっていました。日本の脱炭素化が決定的に遅れることになった最大の要因は,2011年の東北大震災です。原発を急ぎ全面停止して火力発電で当面しのぐことが国の方針になった状況は,皆さん実体験として記憶されていることと思います。二番目の理由は,民主党政権時代の太陽光発電優遇政策です。再エネ特措法に基づきFIT(固定価格制度)により電気を高い価格で買い取ってくれるので、安易なソーラー事業者が続出し,太陽光発電の出力変動の調整役に回らされた大手電力会社には,再エネを嫌うアレルギー体質が広まったそうです。残念なことに,このとき普及した太陽光パネルは日本製ではなく,急成長で価格破壊を起こしていた中国製品でした。

2015年のパリ協定以降欧州各国が再エネ技術革新を加速させたのに対し,遠浅が少ない,風況に恵まれないという理由で,自民党安倍政権は風力発電に消極的で,原発再稼働,LNG輸入,高効率石炭火力を中心に置いていました。このため,2019年に日立製作所が風発事業から撤退し,三菱重工もデンマーク・ヴェスタス社との合併を解消し,洋上風力のコア技術を持つ日本企業は消えてしまいます。しかし2020年米国大統領選挙で,石油メジャーの利益を代表していたトランプ共和党政権がバイデン民主党政権に置き換わる可能性が高くなりました。脱炭素に後ろ向きな日本政府の姿勢が国際社会で突出する状況を実務家の菅総理が嫌い,あわてて舵を切って行ったのが2020年10月カーボンニュートラル宣言です。それ以前から由利本荘の洋上風力開発を事業化しようと地域調整を始めていた再エネ・ベンチャーのレノバは,菅元総理の脱炭素宣言を受けて急速に株価を伸ばしました。しかし,その後導入された再エネ海域利用促進法による競争入札制度に基づく事業者選定は,結果的にレノバにとって逆風となり,2021年12月に三菱商事が破格の低売電価格で3つの事業入札を総取りして,国内関係者をあっと驚かせました。

https://biz-journal.jp/2022/04/post_290517.html


その三菱商事も少し前までは石炭火力発電を主力事業としていたようです。日本政府・ベトナム政府の肝入りプロジェクトであったブンアン2石炭火力発電所事業を請け負ったのですが,その後石炭ビジネスに対する批判が強まり,銀行も政府も離れていき,他社(三井,丸紅,住友,伊藤忠)にグリーン路線で出遅れました。

https://toyokeizai.net/articles/-/418997

 

その苦い経験を教訓として三菱商事は一気にESG路線を突っ走り,三菱重工が取りこぼした風力発電ビジネスの失地回復を果たした…というのが洋上風力第1ラウンドの攻防だったようです。まるで戦国時代に海外からの侵攻まで加わったような攻防戦です。そのうち池井戸小説ができるかもしれません。


もう一つ気になる点は,アメリカのミレニアム世代,Z世代が期待しているのは,バイデン政権のマイルドなリベラル路線ではなく,サンダース候補が掲げた急進的なプログレッシブ路線であり,次の時代を担う人々が自分達の時代の社会のあり方に明確な意思表示をしているという指摘です。

https://newspicks.com/news/5354807/body/

これが多数意見であるか確認が必要ではありますが,日本でも「地に足の着いたSDGs」として,ストローやレジ袋,フードロス等に目を向けるだけでなく,20年後の生活と社会と基幹産業のあり方に関する骨太の議論が必要であると思います。