五島の洋上風力はお手本にはならない?

(写真提供:五島市)

 

五島崎山沖の洋上風発占用計画が認定されました。協議会での審議内容が最終的に占用の条件や注意事項になることが確認できました。他地域の協議会のオンライン動画や議事録を見ていると,漁業者,海運事業者,海底ケーブル利用者,住民代表としての自治体幹部(いずれも年配男性)などが一人3分程度意見を述べるだけの形骸的な通過儀礼となっている例もあります。もっと幅広い立場の人,世代の人の意見を汲み上げ様々な角度から議論を行い,地域の未来を築くための事業としての枠組みを作ることが大切です。

そのような観点からも,五島の洋上風発は成功例として讃えられ,後発地域の関係者が相次いで見学に訪れています。確かに,市民一体となった合意形成や未来ビジョンの共有,地元からのセメント調達を始めとした地域振興策など,良く練り上げられた開発計画になっています。しかし,五島の手順を他の地域がそのまま真似することができない特殊事情の上に成り立っているのが崎山沖風力開発です。

1)長い年月をかけた住民意識醸成
1960年代の高度成長期から五島では人口減少が進んでおり,島の起死回生策として何か新しいことを始めなければならないという危機意識がありました。その一つとして2010年に洋上風力実証事業を受け入れ,自治体や事業者の努力のもと小規模試験機を運用しながら紆余曲折を乗り越え,再生エネルギーの島という地域の未来像が市民に浸透していった10年以上の歴史があります。これに対し,政府が2020年10月に突然掲げた脱炭素目標を達成するために再エネ海域利用促進法に基づきセントラル方式で風力開発を進める他地域は,国が定めたスケジュールに沿ってプロジェクトを進めることが求められ,住民意識の醸成を待つ時間を作ることができません。

2)再エネ海域利用促進法適用前の事業者選定プロセス
五島崎山沖の事業者選定は再エネ海域利用促進法の適用前に行われたため,実証事業の頃から調査や合意形成に携わって来た戸田建設がそのまま実施事業者として選定され,スムーズにプロジェクトが進んでいます。一方,2021年12月以降の事業者選定は競争入札方式となり,秋田や千葉では事前調査や漁業者説明を行った事業者が落選し,新たな選定事業者がゼロから意見調整や環境調査を行うことになりました。開発の具体的内容や交渉の相手が落札まで定まらない状況の下,地元の人々の意識をまとめる新たなチャレンジが地方自治体には求められます。

3)地産地消というゴール設定
五島崎山沖の場合には,建設される風車は10基以下で,発電した電力を全て地元に供給することが決まりました。島に必要な電力を島で作る地産地消を目的とするため,利害相反も合意形成も島の中で一応完結します。これに対し他地域は数十基以上の風車を建設し都会への電力供給が主眼となるため,開発の目的や利害が地域内で完結しない『外部性』や『地域間ギャップ(地域の環境保全 vs 国や地球の環境政策)』の図式を抱えます。

これから風力開発が進む地域では,より難しい課題を乗り越えるため,地方自治体が地域の将来像を明確に打ち出し,その中で風力開発がなぜ必要であるのか地域住民に(できることなら都会の電力利用者にも)説明しなければなりません。さらに(風発稼働後の社会を担う世代が現在の議論に関与しにくい)世代間ギャップもある中,開発の目標を明確にして合意形成を図らなければなりません。

こうした特殊性があるにしても,五島の開発過程は,我が国唯一の先駆的事例として引き続き参照されていくことでしょう。五島の開発プロセスにおいて重大な見落としが起こらないよう,地域スケールの成功事例として大きく実るよう,これからも英知と努力を結集することが大切です。個人的には,『人工漁礁効果により海洋牧場ができて魚が増える』ときわめて楽観的に構えている漁業振興策は具体的なテコ入れが必要であると思っています。