秋田県の漁業と風力発電

新型コロナウイルス蔓延防止措置が一旦解除されたので,秋田県の漁業と洋上風力開発のヒアリング調査に行ってきました。漁業も風力開発も九州とは状況が大きく異なっていて,驚くことばかりでした。

まず漁業ですが,秋田県は海岸線が単調で湾がなく,海が時化る年間日数も多いため,特に県北部ではできる漁業も獲れる魚も限られているようです。同じ理由で養殖もあまり行われていません。ハタハタ以外には特徴的な魚種が少なく,値段が高い魚は県内に買い手がいないので県外に送らざるを得ず(かといって秋田県産魚の知名度や競争力は高くなく),県内には北海道からさらに安価な魚が入ってきて,販売面でも苦戦しているそうです。ただし,県南部は底曳き漁業を中心に比較的頑張っていて,漁協の施設も立派で,漁協が開設している産地市場には20社以上の仲買業社が参入していて,昔ながらの流通形態で踏ん張っているようでした。

 

一方風力発電に関しては,山間部にも海岸部にも既に非常に多くの陸上風車が設置されている風景に驚きました。さらに海岸沿いに洋上風力開発プロジェクトが進行中で,県北から県南まで海岸から3km以内に100本以上の着床式風力発電施設が立ち並ぶことになります。

 

ヒアリングを行なって気になったポイントをいくつか挙げてみます:

 

1)洋上風力開発の有望地域として立候補するかどうか,その後促進地域に進むかどうかの漁協内の意思決定プロセスでは,『今のまま何もしないと漁業は衰退する一方である』『漁業権水域の利用を後で断ることもできるので,とりあえず肯定的に受け入れよう』という論調で,反対意見が出にくかった。

 

2)数年前から開発企業レノバが地域との話し合いや事前調査を進め,売電金額の0.5%を漁業振興基金にあてることを決めたが,実際には三菱商事が当初想定の半額以下の売電価格で事業を落札し,基金も半減することとなり,漁業者は戦々恐々としている。

 

3)漁業振興基金の使い方のアイディアは具体化しておらず,これから開発事業者との話し合いで決めていく。漁業者も行政も受け身の姿勢で開発が進んでいる。

 

4)漁協の組合員は高齢者が大半を占め,実際に風車が稼働する以前に漁業を行なわなくなる人が大半で,受けられる代償は退職金代わりの補償金となる。実際に共生を考えるべき若い漁業者が漁協内の話し合いや検討協議会で意見を代表する機会がなく,ジェネレーションギャップが著しい。

 

5)開発予定地の模型(ジオラマ)を作ってそこに風車模型を設置することで初めて,漁師が漁業への影響を自分の問題として意識し始めるようになった。

 

秋田県に陸上風発が立ち並ぶようになった経緯も,国や県が住民にはっきりした政策を打ち出して合意形成した上で再エネ開発に突き進んだのではなく,気がついたらいつの間にかそうなっていたそうです。洋上風力開発は同じ轍を踏むことなく,地域振興とエネルギー政策を両立する透明性の高いプロジェクトとして進めなければならない...と強く感じました。