地元で買えない海の幸

五島列島の奈留島に一泊して聞き取り調査を行いました。福江島からフェリーで渡った長閑な島の中央に漁協はありました。島の主要漁業はアジ・サバなどを獲るまき網と,ヤリイカやクエ,タイなどの高級魚を鮮魚や活魚として獲る一本釣りの2種類です。しかし獲れた魚の大部分は都会に直接出荷され,島に水揚げされるのはまき網漁獲物の1/10に過ぎません。

 

このため島に魚屋さんはなく,スーパーでも鮮魚を売っていません(スーパーにあったのは冷凍マグロとノルウェーサバの干物だけでした)。漁協直売所で通常売っているのも,養殖ものを冷凍したクロマグロ,マダイ,ヒラマサの切り身だけです。まき網船が島に水揚げしてアジなどがセリにかけられた時だけ,漁協直売所に行列ができるそうです。

 

水産物を薄利多売すると儲からない上に乱獲に陥ってしまうため,高い価値をつけて流通させるのが資源にとっても漁師さんにとっても良いことであると私は考えてきました。しかし,少しでも高い値段で魚を売るために大部分を都会に送るようになった結果,せっかくの海の宝庫でとれた魚を島の人が全く食べることができなければ,次世代の漁業を担う子供達の関心や食文化がしぼんでしまいます。食堂や旅館の店主さん達からも,魚が手に入らないという嘆きの声を聞きました。産地と消費地の関係には,考えるべきことが沢山あります。