個性豊かな長崎の漁協

『はまげん』の石谷さんに一泊二日で福岡から来てもらって,長崎県内の漁協を一緒に巡りました。今回訪問させていただいたのは平戸市の2箇所(舘浦,平戸市)と,長崎市の3箇所(新三重,福田,長崎みなと)です。事前の予想に反して,各組合はそれぞれ異なる独特の特徴や方向性を持っているのが印象的でした。

生月島の舘浦漁協は,江戸時代の捕鯨発祥の地として有名なところですが,明治以降は大型まき網の拠点となっていて,東シナ海から東北・北海道沖まで出漁しているそうです。近くに直売所と食堂と土産店が並んでいますが,直売所の規模は小さく,主に定置網の漁獲物を地元の人に販売しているようです。『漁村に鮮魚店がない』のはよくある話らしく,複雑な事情を反映しているように思えます。

一方,平戸島の平戸市漁協では,定置網や一本釣りなどの小規模漁業者さんを大切にして,沿岸漁業を盛り立てているようです。平戸城を臨む観光スポットにある漁協の1階は食堂と直売所になっていて,休日は観光客で賑わっています。食堂は販売価格を抑えて,採算よりも集客と漁業の活性化に役立てる戦略であるというお話でした。

長崎市の新三重漁協は新長崎漁港や長崎魚市のすぐ近くにあり,漁協ビルも直売所もま新しくて立派です。ここは中小型まき網と一本釣り,潜水などの小規模漁業,および企業経営の養殖業を組み合わせ,市場のニーズに合った水産物をコンスタントに供給することで経営を安定化させる戦略のように見受けられました。直売所は魚市近くにあって,農産物や日用品の小売と一体化したスーパーマーケットのような大型小売店になっているのも象徴的です。

逆に福田漁協は長崎市の市街地のすぐ近くにあり,かつては地先の採貝・採藻やすり身(かまぼこ)加工を主体としていたようですが,現在は漁業を専業として生計を成り立たせている組合員はほとんどおらず,近隣漁協との合併を見据えている状態のようでした。

同様に長崎市近郊にある長崎みなと漁協は,小型まき網でカタクチイワシを獲って煮干し加工することに特化した組合でした。漁協の裏に機械化された煮干し工場が設置されています。煮干しに適した小型のカタクチイワシがコンスタントに獲れないこと,近年の健康(減塩)ブームから海水焚きではなく真水焚き煮干しのニーズが高まっていて水道代がバカにならないこと,など予想外の悩みも聞かせていただきました。

今回5箇所の漁協を訪問し,平戸市や新三重など沿岸の小規模漁業の活性化に尽力されている組合があることを大変心強く思いました。少し気になったのは,近年マグロなど養殖業の企業化ブームによってエサ魚の価格が上昇し,沖合でカタクチイワシなどの小型浮魚を多獲するため,沿岸に小型浮魚(とそれを追いかけてくる大型魚)が回遊して来なくなったと各地で懸念されている点です。多獲性の小型浮魚をどこでどのように漁獲して何に使うか,経済効率以外にも考えるべき大切なポイントがあるような気がします。