水産種とワシントン条約

1）アオザメは外洋性のサメで，サメの中では肉質が良く，欧米ではフィッシュ&チップスやステーキとして食用にされています。マグロ延縄漁業で良く混獲されるので，マグロ類を管理する地域漁業管理機関（RFMO）で資源評価が行われています。北大西洋の資源は減少傾向にあるがCITES付属書掲載基準を満たすほどではない，太平洋の資源状態は良好，その他インド洋などについては情報不足という状況です。客観的に判断すると付属書IIに掲載する必要はなさそうですが，環境保護団体はサメを海洋生物保護の象徴的（カリスマ的）な存在と位置づけていて，この提案も50カ国以上の共同提案となっているため，CITES締約国会議における各国外交官の判断がどうなるか予測がつかない面もあります。

2）と3）も同様の50数カ国共同によるエイ類の提案です。これらはアフリカから南アジアの沿岸に生息し，各種底曳き網で混獲される細長いエイで，そのうち4種が減少傾向にあります。背びれがフカヒレとして高価で取引されることから，CITESによる国際商取引の制限が提案されています。ただ，国際商取引を制限したとしても混獲自体は発生し続け，最悪の場合混獲物が闇取引に回ってしまうため，付属書掲載がその種の保全にとって本当に有効なのか？という，タツノオトシゴと類似した議論を巻き起こすことになります。

4）のナマコは，これまで国連食料農業機関（FAO）などで何度も繰り返し議論されてきたもので，今回の提案対象はニューカレドニアなど南洋地域を主対象としていますが，日本にも関係があります。中国の景気高揚とともに乾燥ナマコの価格が急騰したため，世界各地で乱獲や密漁が起こるようになっており，CITES付属書に掲載することによってこれに歯止めを掛けることを目的としています。日本も例外ではなく，特にイボ足が尖った（その先端に不老長寿成分が含まれている？と信じられているようです）北日本のクロナマコは中華食材として珍重され，乾燥ナマコが江戸時代から俵物として中国に輸出されていました。ただ，乾燥ナマコは加工に手間がかかり厳格な品質管理や等級分けが求められるため，密漁しても簡単に売りさばくことができませんでした。ところが，近年手軽に作ることのできる塩蔵品が取引されるようになり，密漁が横行しているようです。この辺の事情は，検討会委員でもある立教大赤嶺淳先生の著書『ナマコを歩く』に詳しく書かれています。

先日学内で開催したセミナー『水産白書を読む会』でも，水産白書にはナマコの密漁対策が紹介されているものの，誰が何のためにナマコの密漁を行うのか？といった背景や，ナマコの取引が世界的な問題になっている状況が全く説明されていないことが確認できました。私の大学の学生諸君には，水産物の漁獲・生産の過程や流通・貿易の状況を幅広く認識できるようになって欲しいと思っています。