PICES横浜会合

横浜で開催されたPICES(北太平洋海洋科学機構)の年次会合に出席しました。PICESは,ご存知の方も多いと思いますが,北太平洋を取り巻く6カ国の海洋研究者が海に関する幅広い共同研究を繰り広げるためのプラットフォームです。地球温暖化を始めとする環境変動やそれが生態系に及ぼす影響の理解や予測,それに応じた利用や管理の改善が主要なテーマとなっています。基調講演では北西太平洋の黒潮流域,すなわち我が国周辺海域が温暖化のホットスポットとして重要であることが指摘されました。

私自身は“生物構築性ハビタットの生物多様性”作業部会の共同議長として,4年間の活動成果の取りまとめやミニシンポジウムの運営に携わりました。生物構築性ハビタットというのは,サンゴ礁や藻場,深海サンゴや海綿の群生地のように,生物が作る構造体が他の生物の生息環境を作り,全体として独特の生態系を構成する場のことを意味します。ミニシンポジウムの基調講演では,グレートバリアリーフのサンゴ礁において,ブダイを漁獲しすぎると海藻が増えて造礁サンゴが減少するプロセスを定量的に捉え,サンゴ礁が衰退しない程度にブダイ漁業を管理する方法が生態系をベースとした漁業管理のケーススタディーとして紹介されました。とてもわかりやすい教科書的な例でしたが,生態系を考慮するとブダイの漁獲量を減らさなければならない,それでは漁業者がその生態系の中で持続的に漁業を続けるためには,どのような魚の採り方,売り方をするべきであるか?…そこまで考慮しなければ(漁業者にしわ寄せがくるだけでは)ストーリーが完結しない印象も受けました。浜に根ざして漁業や生活を営む日本の漁業者と,単なる収入源の一つとして魚や漁業を利用する海外の漁業従事者,といった漁業のあり方の違いが背後にあるのかもしれません。