CLIOTOPシンポジウム

基隆(キールン)にある台湾海洋大学で開かれたCLIOTOP国際シンポジウムに行ってきました。CLIOTOPというのは気候変動が海の高次捕食者に及ぼす影響に関する国際プロジェクトです。10年以上続いているプロジェクトで,当初は気候変動下でのマグロ類の資源変動と漁業管理が中心課題でしたが,海鳥・海獣などの大型生物を含む海洋生物の生物多様性や社会経済システムの持続可能性までカバーする壮大なプロジェクトに発展しています。

私は2013年にニューカレドニアで開かれた第2回シンポから参加していますが,ビッグデータの解析技術が大きく進んでいるように感じました。2013年のシンポでは,野生動物の追跡データは個々の研究チームがそれぞれの目的に応じて収集した『必ずしも独立ではない』データを含んでいるので,注意して取り扱うべきだといった議論がありました(『人が脱ぎ捨てたパンツを気安く履くべきではない』といった表現で!)。しかし今の風潮は個々のデータの出自(解析過程である程度考慮されているのだと思いますが)よりも,とにかくありったけのデータを集めて傾向を抽出し将来を予測するということが研究の動機として強く働いているようです。解析手法も機械学習系の手法が多く取り入れられ,説明変数と応答要因の関係はブラックボックス化が進んでいます。豪州CSIROのAlistair Hobayが昼食時にポツリと語った言葉が印象的でした:『以前の研究者は影響要因の作用メカニズムを関数として理解することで満足が得られたが,今の研究はそこがブラックボックス化しても予測精度が高ければ満足する。この分野の研究は工学化しているね!』

キールンは,長崎やベルゲンと同じような細長い港町で,昔ながらの屋台や街並みを残しています。今月私は特に忙しいので,ホテルと会場の往復を続けるだけでしたが,あちこちにある庶民的食堂でサッと食事を済ませるのも簡単で,人々が親日的なので心も和みました。こんな生活を1週間続けていたら,雨が多いこともあって,最後は流石にちょっと飽きてきましたけどね。