水産物の薄利多売へ歯止め

瀬戸内海周防灘に面した福岡県豊前市にある“うみてらす豊前”を,やる気のある大学1年生2名と一緒に見学してきました。ここは元福岡水試研究員,現在はまげん社長の石谷誠さんがアドバイザーとして運営を支えている漁協の直売施設です。経営のコンセプトは,『薄利多売に歯止めをかけることで,魚を獲り過ぎることなく価格を維持して儲けを出し,それによって乱獲を防ぎ,漁師さんも儲かる漁業を目指す』ということです。

豊前海では小型底曳き漁業が盛んですが,季節ごとにある1種類の魚を集中して獲る傾向があるそうです。冬はカニ,春先はコウイカ,夏はハモ,秋はサワラといった感じです。毎日同じ一種類の魚ばかり水揚げするので,市場に魚が飽和して価格が下がってしまい,例えば昨日は1箱が1万円で売れたのが,今日は10箱が1万円でしか売れない,という状況も起こってしまうそうです。今日の9箱は獲らないで海に残しておいて,明日明後日に獲って売る方が,値崩れしてすることもなく,資源にも優しい持続的漁業になる筈です。値崩れを起こすもう一つの要因として,価格の安い小型の魚や脱皮したての甲羅の柔らかいカニなども獲ってきて,水揚げしてしまう漁師さんの性もあるそうです。そこで,大消費地福岡の市場には一定品質の魚を値崩れしない程度に出荷し,それ以外の魚を漁協が直接販売することで価格調整と資源の有効利用を図ろうということで,石谷さんが水試研究員のころから改革に取り組んで作り上げたのがこの施設です。

1階は活魚をたくさん置いた直販所になっています。ここのコンセプトは漁師さんが獲ってきた魚をすぐそのまま売れる簡便さにあるそうです。漁師さん一人にカゴ一つのスペースが与えられていて,漁師さんはそこに活魚を入れて値段をつけるだけです。活魚でないものは,後方に見える対面販売方式の魚屋で売ってもらえます。あとの販売,会計などは施設の人がやってくれます。日曜日などは館内放送で“◯◯丸が今入港しました。販売所で◯◯の水揚げ販売を始めます”とアナウンスすると,お客さんがドッと集まってくるそうです。

今の季節はハモが売りで,お客さんが活魚を買うと,その場で活き〆めしてもらえます。ハモ鋏でつかんで,首を切って,背骨に沿ってワイヤーを通す神経シメで即昇天させることにより,もがいて苦しむこともないので,スムーズに血抜きができて肉質の良い食材になります。ハモは歯が鋭くて取り扱いは危険なのですが,ここの女性スタッフは手馴れたものです。

さらに若干の手数料を払うと,加工処理場で綺麗に3枚おろしした上で,専用のハモ骨切りマシーンを使って骨切りまでやってもらえます。ハモは小骨が多く,皮に沿うように骨が多数入っているので,皮の厚みの1/2まで包丁を入れて切らないと,美味しく食べることができません。そのため熟練した板前さんが調理したハモでないと,皮や骨が口に残ってしまいます。このマシーンで処理したハモを食堂で食べましたが,上等のお寿司屋さんのハモと変わらない口当たりの良さに感心しました。

二階がその食堂になっています。ここも試行錯誤の末,面白い工夫がなされています。季節ごとに取れる魚の種類が決まっていることを逆手にとって,カニ→カキ→コウイカ→コショウダイ→ハモ→サワラと約2ヶ月ごとにメニューを変えて,観光客に年6回食べに来てもらおう!という企画です。当初は地元労働者の昼食需要を狙って500円の日替わり定食を出したところ,500円では大した利益が出ないし,バリエーションも少なくすぐに飽きられてしまいました。ここでも薄利多売路線から大きく方向転換し,メインターゲットを車でドライブに来てくれる観光客に切り替え,四季折々の旬の魚を全面に出したところ,売上が大きくアップしたそうです。私が訪れたのは平日のお昼でしたが,席は半分以上埋まっていて,観光客だけでなく仕事人らしき人たちの姿も混ざっていました(そういう人向けの比較的安価なスタミナメニューも用意されています)。

施設見学の後は,漁協の会議室で色々とお話を伺いました。石谷さんが目標にしているのは,1)漁師さんの存続,2)漁協の存続,3)地域の賑わい,4)水産資源の管理,だそうです。コンサルタントとして漁協や漁業者さん相手に1)〜3)に取り組んでいるけれども,なかなか4)まではたどり着けないというお話でした。水産業と地域の持続可能性のために,現場で努力されている方を目の当たりにして,大変力強く感じ,私は大いに励まされました。是非一緒に力を合わせることで,水産物薄利多売の流れに釘を刺し,海の中の資源や生態系の健全性と,陸の上の漁業者さんや地域の持続可能性を両立できる具体的成功事例を作り出してみたいと思います。

 

うみてらす豊前
http://umiterrace-buzen.com/
(株)はまげん
http://www.hamanogenki.com/