「水の惑星」地球の中でも,我が国日本はとりわけ複雑な海岸地形,寒流と暖流が接する生産性の高い海域,多様な海洋生物に囲まれており,地域や季節に応じた海の恵みを積極的に利用することで,独自の生活や文化を育んできました。無形文化遺産「和食」や「もったいない」の伝統文化は,世界的にも高く評価されています。
しかし,実は1960年代から,我が国の漁業従事者数は減少の一途をたどっています。特に近年,魚がめっきり獲れなくなっているのに,値段はむしろ低下していて,漁業者さんの生計は成り立たず,もう後継者はいない,という声が日本中から聞こえてきます。海の中の魚の資源や生態系,魚介類を食料として利用する人間の社会・経済・文化,これら自然のシステムと社会のシステムの双方がおかしな状態に陥り,ネガティブ・スパイラルが回っている可能性が大いにあります。少子高齢化が間違いなく進む中,日本の海と漁業(沿岸地域の地方都市)と魚食文化をどのように残すのか,残さないのか,今がそれを真剣に考えるラストチャンスです。
10年後,20年後,さらにその先々まで海を豊かに保ちその恵みを享受するためには,これまでの漁業のあり方,管理のあり方,利用のあり方を,漁業者,管理者,消費者それぞれの立場から見つめ直して改める必要があります。このサイトでは,そのために役立ちそうな情報やツールを,水産資源管理や生態系保全をめぐる国際議論に長年携わってきた観点から投げかけます。水産学・海洋生態学に関心を持つ若い人や,食品の環境負荷や持続可能性に興味をもつ方々の参考になること,海と漁業を巡る危機感や改善の気運が少しでも広まることを祈っています。
我が国周辺の豊かな海の恵みを「宝の持ち腐れ」にすることなく持続的に享受するためには,生態系に基づく管理(EBFM)を日本の状況にマッチした形で作り上げる必要があります。現在何が問題で,これから何をすべきか,考えることから始めましょう。
海洋生態系モデルは地球温暖化などの環境変動のもと漁業が生態系に及ぼす影響を把握して管理方策を検討するためのツールです。生態系モデルの原理や特徴,限界などについて紹介します。